久元 喜造ブログ

トクヴィル『アメリカのデモクラシー』第1巻(上・下)

160531
トクヴィル(1805 – 1859)は、フランスの政治思想家、政治家人物です。
1830年代に米国各地を旅行した考察に基づき、名著『アメリカのデモクラシー』を著しました。
1835年に第1巻が、1840年には第2巻が書かれました。

トクヴィルのこの代表作を読むことにした動機は、もちろんコミュニティレベルにおける自治のあり方について、原典に立ち返って研究したいという点にありました。
トクヴィルは、ニューイングランドの地域共同体の制度と実態を詳しく調べ、こう結論付けます。
「ニューイングランドの住民がタウンに愛着を感じるのは、それが強力で独立の存在だからである。これに関心を抱くのは、住民がその経営に参画するからである」

本書の考察の範囲は、連邦憲法に基づく統治機構、司法権、立法権、そして公務員制度などの制度のほか、政党、政治的結社、出版の自由などに及び、米国の民主政治のありようを浮き彫りにします。
また、連邦政府と州政府との関係は、米国政治・行政制度を考察するうえで不可欠ですが、この点についても、当時の政治状況を踏まえながら、詳しく論じています。
連邦政府がインディアンの権利に一定の理解を示す一方、州政府の力は強く、入植者の権益を背景に州がインディアンを放逐していく理不尽も鮮やかに描かれていました。

トクヴィルは、米国人とロシア人が「どちらも神の隠された計画に召されて、いつの日か世界の半分の運命を手中に収めることになるように思われる」と記し、本書を結びます。
未来を透徹できる稀有な知性によって、本書が記されたことがよくわかりました。