2ヶ月以上前のことになりますが、9月21日の朝日新聞に、「酒徒が集う店」というエッセイがありました。書き手は、居酒屋探訪家の太田和彦さんです。
「私の思う東京居酒屋御三家は、根岸「鍵屋」、湯島「シンスケ」、大塚「江戸一」。」
この3軒は、よく知っていますが、一番通ったのは、「江戸一」でした。このエッセイでも、もっぱら「江戸一」のことが取り上げられていました。
「江戸一の、コの字に店内を一周する樹齢600年の厚いカウンターに座ると、銘々盆が置かれるのが、この店の特徴を表す。すなわち基本は独酌。事実ここは一人客がたいへん多い。好みの酒と肴を盆に置き、無念無想。天井を仰いだり、次は何にするかと品書き札を見ている。群れて飲むのではなく、独酌をできるのが大人だ。したがって店内は満員でも静か。連れと話すのも、その人にだけ聞こえればよい小声。小声で話すのも大人の行儀だ。」
この店の雰囲気が見事に表現されている文章だと思います。あえて付け加えれば、BGMはなく、静かなるざわめきが店内を包んでいるとでも言えましょうか。
私は、20代の頃から、30年以上、「江戸一」に通ってきました。家内や友人と一緒に飲むこともありましたが、一人で訪れ、独酌するのも楽しみでした。
太田さんは、「徳利の本数が過ぎると「もう帰んなさい」と女将がしゃっと算盤を入れる」と書いておられますが、まさに、そういう光景に何度か遭遇したことがあります。
私は、「江戸一」では、静かに独酌することにしていましたが、一度だけ、隣の客と話が合い、ついつい徳利の本数が過ぎ、声が大きくなってしまったことがありました。勘定をしてもらい、引き上げるとき、女将は何も言わなかったのですが、一月後くらいにお邪魔したとき、カウンターにお盆を置きながら、ピシャリと言われました。
「この前は、だいぶお召し上がりでしたね」と。