北神急行の運賃はなぜ大幅に下がったのか?
2020年6月1日に北神急行電鉄株式会社を市営化し、市営地下鉄との一体運行が始まりました。谷上-三宮間550円は、約半額の280円と、大幅に値下げされました。なぜ、これだけの大幅値下げが実現できたのでしょうか。
北神急行線が結んでいる北区・北神地域は、良好な住宅地だけでなく、自然豊かな里山や全国に名だたる観光地である有馬などもあり、大変魅力的なエリアです。そして、終点の谷上から三宮までは、わずか約10分という非常に近い距離にあります。
しかし、その運賃は、都市部では日本で最も高いとも言われ、利用客の減少傾向が続いていました。
それまでにも、運賃低減に向けて、神戸市から様々な支援を行っていました。県と協調して1999年から数億円にも上る補助金を毎年出していたのも、その一つでした。その支援の期限として設定していた2019年3月が目前に迫り、大変悩みました。果たして、このまま同じような支援を漫然と続けるのが本当に良いのだろうか、もっと抜本的な対策を講じることはできないのか。
そして、北神急行線の資産を保有する阪急電鉄㈱と、運賃低減に向け、市営化の可能性を内々に打診しました。話は、角会長、杉山社長に上がり、協議を開始することになりました。もちろんこの時点で合意のめどがたっていたわけではありません。というのも、そもそも北神急行線の運賃が高かったのは、建設費が非常に膨大であったからです。建設・開業してから30年が経過していましたが、それでも、当時の金額で北神急行線の資産価値は約400億円、債務も約650億円という非常に大きな金額でした。神戸市が資産・債務を譲り受け、市営化するには、この資産をいくらで譲り受け、残債務の取り扱いをどうするのかということをクリアしなければならなかったからです。
2018年12月に協議を開始した3か月後、2019年3月29日、神戸市と阪急電鉄グループは、神戸市交通局が北神急行線にかかる資産等の譲渡を受けることについて基本合意に至りました。条件は、簿価約400億円の北神急行線の資産を198億円で譲り受け、約650億円の残債務は、神戸市は引き継がないというものでした。市営化に向けた道筋がここで決まったのです。
2020年6月1日、北神急行電鉄は市営化され、市営地下鉄北神線となりました。谷上-三宮間550円が約半額の280円になるなど、全線にわたって大幅な運賃値下げが実現しました。
協議開始から、杉山社長は、阪急電鉄グループにとって、神戸三宮は重要な事業拠点であり、北区あるいは北神地域から三宮への交通利便性を高めることで神戸三宮というまち全体が活性化することは非常に意義のあることだと仰っていました。
神戸市としても大きな決断でしたが、阪急電鉄グループにおいても、大きな決断をしていただいたと拝察します。鉄道交通においてこれほど大きな運賃引き下げが実現した例はまずないと考えられています。今後、谷上駅へのアクセスの向上、接続する神戸電鉄沿線の魅力向上と地域の活性化などの施策を複合的に実施し、相乗効果を発揮させることによって、人口減少社会における都市経営の一つの方向性を示すことができればと考えています。