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「神戸上昇気流対談」これからの神戸を考える|第16代神戸市長 久元きぞう公式サイト -神戸上昇気流-

「神戸上昇気流対談」これからの神戸を考える

神戸出身の元官僚として、神戸市をより良く変えたい!

竹中ナミさん(以下、竹中) 久元さんは、落下傘や官僚といったネガティブなイメージで語られることが多いと思いますが、私自身は村木厚子さんとのお付き合いを通して、官僚の中にもいいかげんな人もいれば、社会とのつながりを真剣に考えられている人もいることは分かっているつもりです。官僚バッシングに対してご意見はありますか?

久元喜造さん(以下、久元) 官僚バッシングはしょうがないと思っています。受けてもしょうがない原因は官僚が作ってきたからです。国民が国の行政に求めることに対して応えてこなかったのは事実です。「いったい国の役所は、何をやっているのか良く分からない」と皆さん思われているのではないでしょうか?

竹中 霞が関で毎日深夜2時3時まで働いている優秀な若手職員がたくさんおられるのに、どうしてそうなってしまうのでしょうか?

久元 霞が関も神戸市もそうですが、別に一人ひとりの職員が悪いわけではないのです。マネジメントが出来ていないからなのです。古くは、薬害エイズが問題になったときに、文書の管理方法が悪いというのが大問題となりましたね。あれも、文書管理という基本的なことが組織としてちゃんとできていなかったからなのです。私がいた総務省でも、課長や審議官、局長は、文書管理を下任せにしていたために、どこにどんな文書があるかもわからない状態になっていましたので、「これは直そう」と努力しました。神戸市役所も霞が関よりはましですが、文書管理、人事管理、財務管理、リスク管理等をちゃんとしないと仕事の効率も上がりませんし、そういった面でのマネジメントはしていかねばならないと思っています。

竹中 そのためにはIT化がポイントになると思います。プロップステーションでも、チャレンジド(注:障がい者のことを「挑戦という使命やチャンスを与えられた人」という意味でこう呼んでいます)が紙資料をデータ化する仕事を請け負わせていただいていますが、こういったアウトソーシングもますます重要になってくると思います。

久元 IT化は非常に重要なポイントですし、経験ある民間の方々にご協力いただきたいと私も思っています。

元気のある女性が多い神戸

竹中 神戸には、元気で才能を持たれた女性が多く、私も色んな会でお会いするのですが、神戸市全体の施策に女性の活用が少ないという結果が出ています。久元さんの奥様はプロのピアニストとして活躍されている方ですし、政治や行政についても堂々と意見を戦わせることができているように思うのですが、いかがでしょうか?

久元 そんなことないですよ。音楽のことしか関心を示しません(笑)。

竹中 でも、文化の分野で活躍されている女性とご一緒されているわけですし、神戸で女性の元気や能力を活かす方策について何かお考えのところはありますか?

久元 そこは、良いアイデアがあったら教えていただきたいところです。

竹中 なるほど、そこは皆さんの声を聞くところから始めたいということですね。

久元 そう考えています。ただ、「市民の皆さんの声を行政に反映させる」というだけなら誰にでも言えることです。実際に、そう主張してきた方が知事や市長になってものすごく大きく変わったか、というと、私の今までの経験からはあまり聞いたことがありません。当たり前のことですが、どのようにして変えるのかという具体的な方法論がないと変わらないのです。

竹中 では、久元さんはどういう方法論を考えておられるのでしょうか?

久元 国でも自治体でも同じですが、ある分野のテーマについて検討する時には「審議会」や「調査会」というのを作って、そこで議論いただき、報告や答申をいただくという形が一般的です。ただ、こういったものは、往々にして、実際のシナリオや段取りを全て役人が作っており、役人がつくるお膳立ての中で整然と進んでいくものになりがちです。私は、そういうやり方では全然ダメだと思っています。

竹中 確かに、それでは意味がないですね。

久元 私は、審議会や委員会という形をやめて、役所の仕事そのものの中に一緒に入っていただく方が良いと思っています。例えば、先ほど話題になった文書の管理改善についても、調査委員会を設けて答申をいただいてやるという形ではなく、文書の改革作業チームそのものに民間の経験者に最初から入っていただいて進める方が良いと考えています。

竹中 「官民連携」とはよく言いますが、そこまではなかなか普通やらないですよね。

久元 はい。はじめからストレートに入っていただくのです。例えば、西区や北区に耕作放棄地がどんどん広がっている問題についても、その利活用を考えるためには、実際にその地域で元気に農業をされている女性の方にも参画いただき、北区役所や西区役所や本庁の農業振興や農地管理に関係している職員と一緒にチームを作って、現地でワークショップや打合せを開いたり、現地を見ながら実際に何をしたら一番良いのか考えていく方が良いと思います。その方が、その分野に関してどうしたら良いか一番真剣に考えておられる民間の方も、その分野に実際の責任がある職員も、一緒に解決方法を見出していけると思います。

市役所改革のために組織改革は必要か?

竹中 霞が関の経験を活かして、その弱点だった部分を、今度は神戸でうまく強化していこうとされているんですね。そう考えると、役所の機構改革も必要なのではないでしょうか?

久元 機構改革が先にありきということはないと思っています。正確に言うと、機構改革自体にはあまり意味は見出していないのです。例えば、新しい、複数のセクションにまたがる仕事が出来たときにこれを調整する組織を作ることがよくありますが、そのことで二元行政が三元行政になったりすることもあります。機構を変えなければならないということではなく、分野横断的に関わる形にする方が大事なのではないでしょうか?

竹中 機構改革ではなく、意識や仕事のやり方の改革ということですね。市民の知恵を持っている人にもうまいこと入ってもらって、一緒にやれる職員に変わろうぜということでしょうか?

久元 はい。全部が全部そのように出来るとは思いませんが、役人がやっている仕事の中には、本当は、どうしたらいいのか分からないというものもあるのです。役所だから口が裂けても言えないことですが、総務省でもありました(笑)そういう時は分かっている方の知恵を借りるべきですし、プライドが邪魔をしてはいけないと思います。

竹中 そういう関係を今までは官と民で持てていませんでしたが、これからは持っていけそうですね。

久元 はい。どういうケースがそれにふさわしいかは職員のみなさんとも相談しながら考えていきたいです。神戸にはものすごく元気な経営者の方もいらっしゃるし、経営者の下でマネジメントをされている方も沢山おられます。そういった方々の知恵もお借りして、市役所改革は成し遂げたいと思っています。

これからのリーダーに必要なものは?

竹中 ここまで話をしてきて、久元さんは本当に真面目な方だと思いましたが、154万人の市民のリーダーであろうとする方は真面目なだけではいけないと思うんです。もう少し、豊かに、暖かく崩れて頂いた方が良いのではないでしょうか?ちょっと崩れてください(笑)

久元 厳しいリクエストですね(笑)。私も市長の役割とは何なのか、と考えることがよくあるのですが、与えられた仕事をただこなすだけの存在では決してありませんし、かと言って全人格的に優れている存在でなければならないというのはあまりにハードルが高すぎるとも思っています。私自身、自分の人間力がどこまであるのかわかりませんが、神戸で様々な方々とお話をさせていただく中で、今まで自分が気づかなかった潜在力に気づかせていただいており、有難く思っています。

竹中 今の時代、「仰ぎ見るリーダー」ではなく「コーディネート力」が問われると思っています。チームをどれだけ面白いチームにするか、チーム員それぞれの長所が生きるチームにしなければなりません。弱点ばかり見ていたら前に進みませんから。

久元 仰る通り、結局は「チーム」なんですね。チームの作り方は、10人、100人、1000人で違います。1万5千人の職員をチームとしてどう動かしていくのか、これはものすごく大変なことだと思います。ただ、その際に一人ひとりの良いところをどうやって引き出していくのかが問われると思います。悪いことばかり気になって指摘していると、指摘される方もどんどんやる気がなくなりますからね。

竹中 そうなんです。一番上に立つ人の考え方一つで大きく変わってしまうことだと思います。

久元 選挙で選ばれたリーダーが気を付けなければならないことですが、「自分は選挙で選ばれた」、「これをやれ」、「これは市民の声だ」、「市民の付託を受けたんだ」と担当の職員や組織を追い詰めると、役人は、カメが頭も手足もひっこめる状態になり、蹴飛ばしても転がしてもテコでも動かなくなります。僕もカメになったことはありますから(笑)そうなってしまったらダメです。一つひとつのチームがいかに動いて、チーム同士の繋がりをいかにうまく創り上げるのかという全体としてのチームワークを考えないといけないと思っています。そのチームワークづくりのためには、経験が必要です。私は十分であるかは分かりませんが、長年大きな組織の中で仕事してきましたし、首長や大臣の下でも仕事をさせていただいた経験の中で、自分なりにどうすべきかをずっと考えてきましたので、活かせるところはあると思っています。

竹中 ぜひこれからの神戸のために、力を発揮いただければと思います。本日はありがとうございました。