著書:ひょうたん池物語
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- 作
- 久元 喜造
- 絵
- 有村 綾
- 出版社
- 神戸新聞総合出版センター(2016年11月刊行)
- 定価
- 1,200円(税別)
本の詳細
少し昔のこと。
港のある大きな街からほど近いところに、のどかな里山が広がっていました。里山には、なだらかな山や丘に抱きかかえられるように、たくさんの池がありました。それらの中のひとつの池が、この物語の舞台です。
池の水は澄んでいて、それはそれはきれいな池でした。水面は木漏れ日を受けてキラキラと輝き、ときどき魚が跳ねると波紋を作ります。まわりをぐるりと取り囲む雑木林には、夏になるとカブトムシやクワガタが集まり、秋になると葉っぱが鮮やかに色づき……。季節によって様々な姿を見せるのでした。
池には土手があり、その端から山道を通って雑木林に入ることができます。山道はすぐ登り坂になり、池を眼下に眺めながら、祠のある山の頂きへとつながっていました。山道から池を見下ろしてみると、池の真ん中が少しくぼんでいて、ひょうたんのような形をしていることがわかります。村人たちはこの池を昔から「ひょうたん池」と呼んでいました。
1960年代に入ると、長い年月、平和なときを過ごしてきた神戸の里山に開発の波が押し寄せます。そして、東京オリンピックが開催された年、ひょうたん池にも大きな危機が訪れました。池で暮らす生き物たちはどうなるのでしょうか……
本書は、当時の幼い日々を回想しながら記した、私にとってのノスタルジアです。しかし当時の様子の再現ではなく、自由に想像力を飛翔させながら創り上げたファンタジーであり、ある意味で「大人のための童話」です。
高度成長期、野山をかけめぐった、かつての悪ガキたちに捧げたいと思います。