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読売新聞 令和2年2月22日(土)朝刊

<Saturday(土曜) 広論>
脱タワマン 輝く神戸に
久元喜造・神戸市長

 利便性の高い都心に住むことを好む人が全国的に増えている。高層マンションは限られた土地を有効に使え、特に20階以上のタワーマンション(タワマン)が人気を集めている。しかし、神戸市全体のまちづくりを考えた時、タワマンはかなり大きな課題を抱えていると言わざるを得ない。

 一つは修繕積立金の問題である。マンションは定期的に修繕しなければ急速に老朽化が進むが、全国の分譲マンションの平均積立額は国が推奨する金額の半分にも満たない。積立金の不足はマンション共通の課題とはいえ、その影響は分譲型タワマンに色濃く表れる。区分所有者が多く、合意形成が難しいからだ。

 修繕費を賄うため、積立額を増やそうとしてもなかなか意見がまとまらない。修繕できないまま時間がたてば、資産価値が下落する。そうなると空室が増え、さらに積立金が不足するという悪循環に陥ってしまう。

 もともとプライバシーがしっかり守られていて、周りと付き合いをしたくないという方も多い。まちづくりの観点では、閉鎖的で巨大な居住空間であるタワマンは地域社会との接点が薄い。防災訓練に参加しない、関心がないという管理組合も多いと聞く。

 災害時のリスクも大きい。免震構造で大地震でも倒壊しないが、電気、水道、ガスがストップすることはありえる。取り残された大量の居住者はどうするか。高齢者や障害者、病気の人もいるだろう。例えば、エレベーターが使えなくなった時、その人たちの暮らしをどう保障するのか。備えが必要だが、議論されていない。

 タワマンは都心に集中する傾向がある。狭いエリアに林立すると急激に人口が増え、学校や保育所などが足りなくなる。商業施設や企業の集積が阻害されるおそれもあり、いびつな構造の街になりかねない。これでは、周辺都市から人を呼び込めるにぎわいのある街にならない。

 現在、神戸市内にタワマンは70棟程度あるが、7月に施行される改正条例で都心での新築を規制する。商業ビルやオフィスビルが集まるJR三ノ宮駅南側の22.6ヘクタールは、全てのマンションと戸建て住宅の建設を禁止する。その周辺292ヘクタールの市街地も、1000平方メートル以上の土地にマンションを建てる場合は容積率を制限し、タワマンの建設を抑制する。

 中心部の三宮は買い物や食、アートが楽しめ、若者の雇用創出にもつながるような商業とオフィスの街、その周辺はバランスの取れた形で一定程度の居住機能を備えた街にしたい。

 神戸は大都市でありながら、東京や大阪に比べ自然環境にも恵まれている。繁華街だけでなく、北野や有馬といった観光地があり、新開地や長田のような下町もある。六甲山の北側は里山と文化遺産が共存するエリアだ。神戸ビーフは世界中で評価が高いが、戦前から中華料理やフランス料理など様々な国の食べ物が楽しめるグルメの街でもある。

 このように多様な顔を持つ神戸の特性を生かし、まちづくりを進めたい。神戸は戦前から国鉄、私鉄を含め、鉄道網が発達してきた。沿線にニュータウンを開発し、海を埋め立てて整備した新たな街もある。人口減少時代が本格的に到来する中、都心の三宮に人口を集中させるのではなく、充実した交通網を活用し、拠点となる各駅の周辺に人口が分散するよう誘導していく必要がある。

 その象徴的な取り組みが、市中心部と北部を結ぶ北神急行の買収だ。「官から民へ」の流れに逆行するが、阪急電鉄から198億円で買い取り、6月から市営地下鉄と一体運行を始める。運賃が大幅に安くなり、市北部エリアの開発ポテンシャルが高まるだろう。

 神戸は25年前の阪神大震災後、市民が助け合って街を蘇(よみがえ)らせてきた歴史がある。これからも都心、ニュータウン、農村とそれぞれの地域のありようを大切にし、そこに暮らす人々の顔が見える生き生きとしたコミュニティーを大事にしたい。一方、タワマンが立ち並ぶ街は、神戸の都市戦略が目指す姿と正反対にある。神戸を大阪のベッドタウンにはしない。

◇ひさもと・きぞう 1976年東大法卒、自治省(現・総務省)入省。大臣官房審議官、自治行政局長などを歴任。2013年11月から現職。神戸市出身。66歳。

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