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読売新聞 令和元年7月11日(木)朝刊6面

神戸市 IT都市へ変革
宅地開発脱却 浮上図る

 関西経済圏の雄とされながら、今や人口減と高齢化の危機に直面している神戸市が、都市経営の変革に乗り出した。「株式会社神戸市」ともてはやされた宅地開発中心の手法から脱却し、ITなどの産業育成で浮上を図る。挑戦は、果たして実を結ぶだろうか。
(藤井竜太郎、山本貴広)

■シリコンバレー

 米サンフランシスコ市。アップル、インテルなど世界的企業が本社を置くシリコンバレー近郊に5月、小さな事務所が開設された。
 「Kobe Trade Information Office」。神戸市が日本の自治体としては初めて、ベンチャー企業誘致のために設けた拠点だ。
 IT企業出身の人材も近く登用し、米の投資家などのマッチングや情報収集などを担う。永峰正規代表(44)は「新しい技術やサービスを利用できる世界最先端の都市を目指したい」と意気込む。
 3月には、市が東京・白金台で、IT技術者に神戸の企業を紹介する説明会も初めて開催。市職員らが約50人を前に、海と山に恵まれた自然環境なども紹介しながら、「自分のライフスタイルが実現できる」とアピールした。

■市で人口減 全国一

 神戸市がIT企業の誘致、育成に乗り出した背景には、停滞する現状への強い危機感がある。
 市の人口は2011年から減少し、15年に福岡市に抜かれた。今年5月には川崎市にも追い越され、政令市で7位に転落。10日発表の総務省調査でも、日本人住民は1年で6235人減少し、全国の市で最も減っていた。久元喜造市長は「人口は都市の活力のバロメーターなのだが」と焦りを隠さない。
 05年に20%だった高齢化率(65歳以上の高齢者の割合)も15年、27%に上昇。地価は上昇傾向にあるものの、19年商業地平均の上昇率は6.1%で、京都市(13.4%)、大阪市(10.6%)に比べると勢いに乏しい。
 現状打開のため打ち出したのが、住宅地としての魅力アップより、世界的に成長するITなどの産業育成を優先させ、それを核に企業や住民を呼び込む構想だ。
 今月成立した市条例(来年7月施行)では、JR三ノ宮駅南側で住宅新築を禁止するほか、三宮や元町などで容積率を厳しくし、タワーマンションの建設を規制する。
 中心地が住宅街になることを防ぎ、オフィスを誘致して「ビジネスエリア」にする狙いがある。久元市長は「これ以上、大阪のベッドタウンにはしない」と語る。

■震災が転機

 こうした動きについて、市幹部の一人は「都市政策の大転換だ」と話す。
 世界有数の貿易港を背景に、造船、鉄鋼業などで発展した神戸市は、高度経済成長期の末期から、「山、海へ行く」をキャッチフレーズに宅地開発に乗り出した。六甲山系の山々を削った土砂で海を埋め立て、山手と臨海部の双方にニュータウンを造成。それを販売して得た資金で、さらに開発を進めた。
 人口は1970年からの20年で約20万人増加。埋め立てで造成したポートアイランドの大型ターミナルの効果で、神戸港のコンテナ取扱量はアジア有数を誇った。
 だが95年の阪神大震災で、神戸港はアジアの主要港の地位を失った。復興に財源を投じ、市街地再開発が後手に回る間に、西宮市、尼崎市など、より大阪に近い阪神間で宅地開発が進んだ。
 神戸市では今、年間6000人超が市外に流出。移転先の半分は首都圏だが、3分の1は阪神間や、子育て支援に注力する西隣の明石市に奪われている。市幹部は「政令市でも人口減が過度に進めば、地盤沈下は避けられない。生き残りのためには、新たな<神戸の顔>となる産業を育てるしかない」と話す。

■成否は?

 芽は育ちつつあるようにも見える。市の起業家育成プログラムや補助金制度を通じ、これまでIT系約10社が市内に拠点を構えた。日本総合研究所の藤波匠・上席主任研究員は「神戸には空港などのインフラもあり、成功の可能性は十分にある」とみる。
 ポートアイランドの「医療産業都市」には、医療・創薬など約350の企業や研究機関がすでに立地し、iPS細胞(人工多能性幹細胞)を利用した先端医療研究の拠点となっている。藤波氏は「医療系企業に加え、IT分野も育ち始めれば、相乗効果でビジネス拠点としての魅力は高まる」と期待する。
 一方、砂原庸介・神戸大教授(地方政治)のように「神戸はすでに大阪都市圏の一角。神戸単独で産業を呼び込んでもあまり意味がない」と否定的な声もある。東京への一極集中が進む現状で、一つの自治体で縮小の流れを変えるのは難しいとの見方だ。IT企業の集積を目指すライバルも、福岡市など数多い。
 砂原氏は「大阪や京都と役割を分担しつつ、適正な規模を目指すべきだ。都市としての縮小を受け入れ、暮らしの質を高める街づくりが必要ではないか」と話している。

地方の政令市 人口減対策
都市機能 集約の動き

 全国的に人口減が進む中、地方では政令市でも、対応を迫られつつある。
 首都圏では東京一極集中の恩恵を受け、人口増加が続く。横浜、川崎、さいたまの3政令市では、この5年で計約15万人増加した。
 一方、地方都市圏では、中核の大阪市や福岡市、札幌市などで人口が増えているが、周辺に波及させるほどの力はない。このため周辺の政令市には、都市機能を中心地に集約する「コンパクトシティー」を目指す動きもある。
 北九州市では、かつて100万人を超えていた人口が減少の一途をたどり、2040年には80万人を切ると予想されている。市はバスや鉄道の維持に支障が出かねないとして、小倉などの中心街でマンション高層化などを推進し、郊外から住民を誘導しようとしている。
 人口70万人台で横ばいが続く熊本市も、バス路線の再編を進める。中心部で商業施設を建設する際にマンションを併設すれば補助金を出す制度も検討中だ。
 国土交通省の担当者は「政令市は他都市に比べ、交通網や公共施設など維持すべきインフラが多い。将来の人口減を見越して早めに手を打つことが、都市としての利便性を維持するためにも重要だ」と話している。

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