対談・インタビュー

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「月刊神戸っ子」2017年8月号(P.24~P.31)

月刊神戸っ子 2017年8月号(P.24~P.31)

“認知症にやさしいまち”の実現に向けて
神戸を拠点に40年以上歩んできた
日本イーライリリーと協力

久元 喜造 神戸市長
パトリック・ジョンソン 日本イーライリリー株式会社 代表取締役社長

「神戸医療産業都市」プロジェクトに賛同し、神戸を新薬創出のための研究開発拠点として位置づけてきた日本イーライリリー(株)。2016年3月15日には、神戸市、(公財)先端医療振興財団と三者で「神戸医療産業都市における認知症にやさしいまちづくり推進のための連携と協力に関する協定」を締結した。同社のジョンソン社長をお招きし、神戸での日本イーライリリー42年の歩みやこれからの認知症対策など、久元市長と話し合っていただいた。

イーライリリーの将来は神戸にある

―神戸に本社を置く日本イーライリリーについてご紹介ください。

ジョンソン 研究開発型グローバル製薬会社イーライリリーは、いまだ満たされていない医療ニーズに応えるために、自社の研究所及び、世界中のパートナーと共に研究活動を推進しています。人々の生命を維持し、生活を改善するための革新的な創薬を目的とし、事業の多角化はせず新薬開発のみに努めています。研究の中心になっている糖尿病、アルツハイマー病、がん、疼痛、自己免疫疾患、中枢神経系疾患などの領域で日本の医療に貢献しています。

久元 イーライリリーという、歴史と伝統のある医薬品企業が、日本での本社を神戸に置き、重要な分野での新薬開発に努めていただいていることは大きな意義があり、医療産業都市を推進する神戸にとって大変心強い存在です。実際にさまざまな面で市民の生活や医療産業都市の発展に寄与していただいています。

ジョンソン 日本イーライリリーが神戸に本社を置いた理由のひとつには、歴史的背景があります。日本法人立ち上げ以前、20世紀初頭から、イーライリリーは関西の製薬企業と連携して医薬品を日本の皆さまに提供していました。1975年、親しみのある神戸、生活の質の高い神戸に本社を置くに至りました。
2、3年前、会社の将来を見据えて日本のどこに本社を置くのがよいのかを再検討した際には、東京や大阪を含めさまざまな都市を比較評価しました。その結果、「やはりイーライリリーの将来は神戸にある」と結論づけました。それは、過去42年間にわたり、神戸のまちと人々によって支えていただきながら日本法人が成功を収め、研究開発型の製薬企業として非常に速い成長を遂げることきたこと、さらに、山と海が近くちょうどいいサイズのまちで、国際的なコミュニティーもたくさんあることなどが理由に挙げられます。2016年末現在、社員数約3千400人の企業となりましたが、本社勤務社員の多くが家族と共に神戸で暮らし、このまちで満足のいく生活を送っています。

久元 ジョンソン社長の言葉に感動いたしました。神戸のまちに魅力を感じ、本社を置いていただいていることを、とても嬉しく思います。

認知症対策の最前線に立ち、他都市のモデルになりたい

―神戸市における認知症の現状と対策、また日本イーライリリーとの協力関係についてお話ください。

久元 超高齢社会である日本全体にとって非常に重要な課題である認知症対策において、医療産業都市を展開する神戸市はぜひとも先端をいきたいと考えています。現在神戸市では、高齢者全体の約11%に当たる約4万7千人が認知症を発症しています。症状を改善、あるいは進行を遅らせ、また早期に介入して認知症予防をしっかりと行っていこうとしています。
初期段階でも集中的な支援のためにドクター、看護師、介護の専門職のチームが、地域包括支援センターから相談を受けて、高齢者の自宅を訪問し、認知症の早期診断や、必要に応じて介護サービスにつないでいく役割を担っています。ひとつの区から始まったこの取り組みを次第に拡大し、2017年度は全区にチームを配置を予定しています。
また、2016年度、認知症疾患医療センターを5施設に増やし、専門医が対応できる体制を整え始めています。さらに認知症の高齢者を地域全体で見守る仕組みを整える必要があります。協力いただける方に対して認知症の方の行方不明情報をメールで一斉配信し、早期発見につなげようとしています。そんな中、2016年3月、日本イーライリリーと神戸市、先端医療振興財団の三者で、認知症にやさしいまちづくり推進のための協定を結びました。

ジョンソン 私たちはこの協定により、日本の認知症対策の最前線に立ち、他都市のモデルになりたいと考えています。日本では既に65歳以上の人口が全体の約25%を占めています。
2060年には約40%にも及ぶといわれる超高齢化社会です。現在、約10万人の方が家族の介護のために仕事を辞めざるを得ない状況になっているとも聞いています。この日本の喫緊の問題解決のため三者で協力できるということは、私たちにとっても非常に有意義なことだと考えています。具体的な連携事項のひとつは、アルツハイマー病の臨床研究を進めることです。2016年、先端医療振興財団との協力の下、アルツハイマー病のファーストインヒューマン試験(ヒトに初めて試験薬を投与する臨床試験)を実現し、グローバルレベルの新薬開発に貢献しています。

久元  神戸には経験豊かな認知症専門医と、臨床試験希望者とのネットワーク(KOBEもの忘れネットワーク)があります。2017年5月現在で、参加を希望される方が61人登録されています。このようなネットワークが新薬開発の促進につながるものだと考えています。

ジョンソン 二つ目の連携事項が教育・啓発活動の推進です。医療関係者だけでなく一般の人たちにも認知症について理解を深めていたっだくために、神戸市と一緒にビデオの制作を進めています。
 さらに、認知症専門家同士のグローバルな交流を推進しています。2017年4月には、神戸の姉妹都市であるバルセロナから認知症専門家を招き、早期診断や治療、コミュニティーぐるみの取り組みについてお話を聞いたり、神戸での研究発表をしたり、交流を深めました。
また、三者のネットワークを活用して、神戸における認知症の研究、啓発・教育に関しての情報を世界に向けて発信をしていく取り組みも進めています。

久元 2016年、神戸で開催されたG7保健大臣会合後に採択された神戸宣言にも盛り込まれた認知症対策を、宣言だけに終わらせず、経済界、学術研究界が協力して具体的な方針を進めていくうえで、三者協定が基盤となるものと大きな期待を寄せています。

地域全体が分かち合えるまちづくりを

―認知症にやさしいまちづくりについて、それぞれの思いをお聞かせください。

ジョンソン 認知症にいては早期診断がきわめて重要です。限定的ではありますが治療法も開発されています。早く気付いて病院へ行き、早期に診断を受けることが大切であると考えています。
また、社会的偏見を無くすことも大切です。認知症の患者さんの行動に周りの人たちが気付き、サポートできるようなまちにしていきたいと考えています。神戸を、認知症患者はもちろん、高齢者みんなにやさしいまちにして、模範を示し日本中で共有するだけでなく、世界に向けて発信し貢献していけると考えています。

久元 神戸の将来像のひとつが認知症にやさしいまちです。治療薬開発や早期発見・予防に貢献できるまち、たくさんの市民がネットワークを通して認知症の方をサポートしていけるまちを目指しています。認知症になっても住み慣れた地域で安心して過ごすことができるまちづくりを、神戸は積極的に進めていこうとしています。

ジョンソン 神戸市の挑戦する姿勢に感銘を受けました。先進的な取り組みにイーライリリーが参加できることを誇りに思います。
さらに、イーライリリーでは、今回の三者協定以外でも、地元神戸をはじめとする社会貢献活動にも積極的に参加しています。ACCJ(在日米国商工会議所)と共同し、働く女性の環境改善をテーマとしたチャリティーイベント「ウォーカソン」への支援、小児がんをはじめ難治性患者の子どもたちが、自分の家にいるよう安心して過ごすことができる「チャイルド・ケモ・ハウス」への支援も継続的に行っています。最近では、さまざまな専門家がアイディアを披露する、世界的に人気の高いTEDからライセンスを取得している「TED×Kobe」の立ち上げからコアパートナー企業として協力しています。さらに、のべ2800人の社員によるチャリティーウォーク活動「デイ・オブ・サービス」では、阪神・淡路大震災で神戸本社が被災した経験を踏まえ、他の地域で災害に遭われた方たちの復興に向けて活動する団体に寄附を行っています。これらの活動は地域とのつながりを深め、神戸の街の可能性やビジョンを考える上でも有意義な活動だと考えています。

久元 日本イーライリリーさんの大きな力に期待しています。今後ともよろしくお願いいたします。

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