対談・インタビュー

interview

建築雑誌 2019年3月号

インタビュー
震災復興から新たな攻めのステージへ――
これからの神戸の都市戦略

久元喜造
神戸市長/1954年生まれ。東京大学法学部卒業。自治省行政局公務員部福利課長、総務省自治行政局行政課長、同大臣官房審議官、同自治行政局長、神戸市副市長を経て、2013年より現職

聞き手:
藤村龍至(東京藝術大学/会誌編集委員長)

オブザーバー:
山村崇(早稲田大学/会誌編集委員)
樋渡彩(近畿大学/会誌編集委員)
水谷元(ヒュージ空間設計室/会誌編集委員)
槻橋修(神戸大学/ゲスト)

「株式会社神戸市」から阪神・淡路大震災後の復興まで

●これまでの神戸市政をどのようにご覧になっていますか。――藤村

久元 歴史的に見ると、神戸市は第二次世界大戦の空襲で大きな被害を受け人口が激減しましたが、急速な復興を遂げ、人口増に合わせて都市が膨張していきました。十分な都市計画がないままに密集市街地が生まれ、開発に適さない山裾にまで市街地が広がっていったのが1960年代にかけてだったと思います。
その後、原口忠次郎市政(在期:1949-69)の末期と宮崎辰雄市政(在期:1969-89)で、いわゆる「株式会社神戸市」の都市経営手法によって密集市街地の解消に取り組むとともに、郊外開発を推進してきました。「山、海へ行く」として知られるように、山を削って海を埋め立てる手法によって「ポートアイランド」や「六甲アイランド」をつくり、成功を収めてきたと言えます。
私の個人的な印象ですが、こうしたデベロッパー的手法の成功のピークは、1981年の「神戸ポートアイランド博覧会(ポートピア ’81)」だったと思います。つまり、既に1995年の阪神・淡路大震災以前から都市を拡大していくためのフロンティアがなくなり、既存の手法に限界が見えていた。そして、そうした停滞期に震災が起きたがゆえに、ダメージもいっそう大きかったのではないでしょうか。

●震災復興についてはいかがでしょうか。――藤村

久元 多くの市民が焼け出されて極めて困難な状況に陥り、とにかく雨露がしのげる環境を提供することが急務となりました。そのことに対して神戸市は、極めて機敏かつ的確に対応したと思います。主要な震災復興事業の都市計画決定が、発災後わずか2カ月でできたことは、当時の神戸市役所のマンパワーと都市計画に関するノウハウの蓄積、笹山幸俊市長(在期:1989-2001)が都市計画の専門家であったことなどが大きく寄与したと思います。例えば、六甲道や新長田の再開発事業が有名ですが、土地区画整理事業も被害の大きかった複数の地域で行ってきました。その結果、神戸市は仮設住宅を4年11カ月で解消しています。
被災後は復旧・復興事業に多大なエネルギーを費やしたため、財政難に陥りました。そこで、職員と経費の削減、新規事業の取りやめなどによる行財政改革を徹底してきた結果、財政構造は大幅に改善し、復興のために発行した1,996億円の災害復旧債の返済も、2016年度末に完了しました。その一方で、人口減少と都市のインフラ整備の立ち遅れがあり、商業業務都市としての機能は相対的に低下していきました。そこで今後の神戸のまちづくりは、人口減少を踏まえながらも都市を成長させ、企業や市民、行政もその果実が受け取れるようなものに切り替えていかなければいけません。

都心部の再整備

●ニューヨークも停滞期のなかで9.11があって、財政再建を経てだんだんと上り調子となり、タイムズ・スクエアなどパブリックスペースの再整備によって新しいイメージを打ち出していきました。都心部の再整備についてはいかがでしょうか。――藤村

久元 大阪のベッドタウンになってしまわないよう、駅周辺部には商業と居住機能を適切なかたちで組み合わせて集積していきます。その際、東京・大阪・名古屋などの大都市と同じような駅前をつくるのではなく、できれば神戸らしいデザインにより商業業務機能を集積させていければと思います。その目玉の一つが三宮に新たに再整備するツインタワービル(Ⅰ期事業者グループ代表事業者:三菱地所、デザイン監修:坂茂)で、西日本最大級のバスターミナル、大規模なホール、商業、オフィス、ホテル、そしてとても美しい図書館からなる複合拠点施設です。

●タワーマンションを規制する方針が大きく報道されましたね。――藤村

久元 一戸建てからマンションへ、郊外から都心へ、という居住に対する選好の変化があり、全国の自治体を見渡すと、高層タワーマンションが多く建っているところでは人口増が顕著です。しかし都市の持続性という意味では、維持管理や住民の合意形成、地域コミュニティとの関係性など、高層タワーマンションには多くの問題があると考えています。容積率の緩和措置の廃止など、タワーマンションについては抑制する方向でのまちづくりを進めていきます。

●パブリックスペースについてはいかがですか。――藤村

久元 まだまだ散発的ながら、いくつかの試みを同時に行っています。市役所に隣接する都市公園「東遊園地」では、民間の方々からアイデアをいただいて、「URBAN PICNIC」と呼ばれる社会実験を行っています。特別なイベント開催の時だけではなく、市民の「アウトドアリビング」として使えるようにしていきたいと思っています。また、神戸市は農業生産が盛んですが、その成果である果物や野菜、それらを使ったスイーツなどの加工品、花などを販売する「ファーマーズマーケット」も2018年は計40回開かれました。非常に賑わっており、東遊園地の風景は大きく変わりました。
都心の半地下空間である「三宮プラッツ」は、2017年「三宮プラッツ改修工事設計業務」のプロポーザルを実施し、今年度に工事に入る予定です。単発的なイベントが行われるだけではなく、とにかく毎日、何かしらのイベントが開催されている場所になってほしいですね。
さらに、メリケンパークから高浜岸壁、ハーバーランドにまで至るウォーターフロントのエリアも、思い切って民間事業者に参画していただくことを構想しています。

●新長田の再開発には課題も多いと指摘されていますが、いかがでしょう。――藤村

久元 エリアの居住人口は震災前より増えていますので、問題は就業人口の減少による地域経済や賑わいの衰退です。現在、再開発地区のなかに、神戸市と兵庫県で新長田合同庁舎を建設しており(2019年6月完成予定)、隣の商業施設「アスタくにづか5番館」とも連結します。ここに市と県で合わせて1,050人の職員が新たに移る計画で、県税事務所と市税事務所が入りますから、訪れる人が増え、近隣では飲食関係や税理士、行政書士の方々の事務所などが増えることになります。就業人口としては震災前に近いところまで回復させることができます。新長田駅前のリニューアルも予定しており、新長田再開発エリアは確実に賑わいを回復させることができると期待しています。

縮退する郊外住宅地のマネジメント

●立地適正化計画を策定中とのことですが、郊外のニュータウンについてはいかがでしょう。――藤村

久元 市営地下鉄を建設して沿線を開発し、都市計画道路とともに、民間開発、公的住宅の供給などを行ってきましたが、人口の減少が始まっています。特に北区では駅前の再整備がほとんどなされていないままです。本来、20〜30年前にやっておかなければいけなかったわけですが、行政単位ではなく、地下鉄と私鉄沿線の駅勢圏を考え、改めて駅前開発を考えていかなければなりません。具体的には、商業業務機能をある程度集積させて、路線バスに加えてコミュニティバスなどの新たな交通手段を提供していきます。
駅前の未利用地を使って、山裾の土地と権利を交換する、いわば遠隔地区画整理のような手法で、人口を駅前に誘導することも考えられます。また、住み替え促進という意味で部分的に進めているのは、神戸すまいまちづくり公社が管理している賃貸住宅を、若者が入居可能な住宅や、学生向けに賃貸可能なシェアハウスへリフォームする取り組みです。まだ具体的な政策展開にはなっていないので、2019年度予算では新規政策として徹底的に議論してみたいと思っています。
また、長田区や兵庫区北部の山麓部分などには、昭和30年代につくられた戸建住宅がありますが、人口流出が著しく、所有者不明土地が多く発生しています。これは全国的にも大きな問題であり、私も制度面での改革に深く関心を持ってきました。2015年に完全施行された「空家等対策の推進に関する特別措置法」についても国会議員の先生方に随分お願いをしましたし、2018年に成立した「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法案」のリード的な役割を果たされた増田寛也さんの研究会にも参画しました。所有者不明土地は、各自治体が管理やコーディネートをしなければ解決できません。全国民的課題ですから、管理に要する費用として国からの交付金制度をつくるべきです。例えば休眠預金を使って、「負」動産を有効活用することが考えられます。自治体が土地の寄付を受け、地域横断的に活動するNPOや、地域の自治会、町内会などをコーディネートしながら管理してもらい、例えば市民農園や防災空地にしていくことなどです。民間によるエリアマネジメントは、大阪城公園のように都心の一等地だけに当てはまるものではなく、むしろ空き家や空き地が広がっているエリアにおいても地域の荒廃を防いでいくためのアプローチとして重要だと思います。

神戸市の強みとポジションを活かす

●最近、人口が福岡市に抜かれましたが、福岡の動きはどうご覧になっていますか。――藤村

久元 福岡と神戸では、わが国全体のなかで置かれているポジションに大きな差があります。日本の大都市の人口動向を見ると、まず東京の一極集中が進んでいて、近傍の大都市、川崎・横浜・さいたま・千葉で人口が増えています。他方で札幌・仙台・広島・福岡のような各地方の中心都市にも人口が集まっています。神戸市は首都圏でも各地方の中心都市でもないので、人口増加都市のカテゴリーに入っていません。都市の規模の拡大を追い求めるのではなく、独自のポジションやポテンシャルを活用して、都市の魅力を増していくことが求められています。
今、日本の大都市を含むアジア太平洋地域の大都市間は、グローバルな分野で活躍できる優れた人材を巡っての競争をしています。いかに優れた人材を国内からのみならず、海外からも引っ張ってくることができるかが大事です。神戸はシリコンバレーのスタートアップ育成支援団体である「500 Startups」のプログラムを日本で初めて実施しています。2018年の応募者を見ると、半数以上が海外から参加しています。また、神戸に本社を構えてくださっている外資系の会社の方々と意見交換をすると、社員の皆さんの満足度が高いことがわかります。海や山へのアクセスが良く、レジャーやアウトドアを楽しむことができますし、インターナショナルスクールや有名高校、高等教育機関もあり、教育環境としても定評があります。このような神戸の強みを、衆知を結集して高めていくことを目指します。
一方で、神戸市の課題は、ITやインターネット関連、クリエイティブ系など、いわゆる都市型創造産業の集積が薄いことです。日本では特に東京23区は圧倒的に強く、大阪市、福岡市も強いですが、そこでは集積がさらなる集積を呼んでいるという側面があります。つまり、おもしろそうなことが起きるところにそうした人たちが集まってくるわけです。さまざまな意味で新たな分野で挑戦する実験を行っていきたいと思いますし、非日常におけるワクワク感をつくり上げていくことも大切です。こうして何かおもしろいことが生まれてきそうなまちだというイメージを世界中に広げていきたいと思います。

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