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朝日新聞 2019年(令和元年)9月24日(火曜日)朝刊27面

組み体操
神戸市長 vs 教委

継続実施「総合的に検討」
中止要請「やめる勇気を」

 秋の運動会シーズンを迎え、「組み体操」の中止を求める神戸市長がツイッターも使い、市教育委員会側への批判を強めている。市教委は継続を決めたが、骨折事故はやまず、是非をめぐる議論が再燃している。

小中 骨折事故3年で123件

 「(これまで)何を対応していたのか? 何度でも言います。教育委員会、校長先生をはじめ小中学校の先生方にはやめる勇気を持って下さい」

 神戸市の久元喜造市長は今月9日、自身のツイッターで怒りを爆発させた。海外出張から帰国して登庁すると、秋の運動会・体育大会の組み体操で、立て続けに3件の骨折事故が起きたと報告を受けたという。

 翌日には「市長には権限がないので、禁止できません。権限があるのなら、こんな形でつぶやくことはしません。教育委員会に働きかけ続けるしかないのです」と発信した。

 久元市長は総務官僚出身で2期目。市教委との対立は夏休み前の7月から始まっていた。定例会見で「市民から『もうやめて』という声をかなり聞いた」と説明。この3年間に市内の小中学校で123件の骨折事故が起きたとし、「(その多さに)正直大変驚いている」と見直しを訴えていた。

 市長は8月2日、正式に文書で市教委へ中止を要請。ツイッターでも「(市教委幹部は)今から方針を変えれば、学校現場が混乱すると(言う)。本当に無責任だ」と投稿した。

計画提出義務に

 これを受け、市教委は同8日、安全確保策を盛り込んだ「実施計画書」の提出を各校に義務づけると公表。安全でないと市教委が判断すれば、実施させない仕組みをつくったが、組み体操自体は継続した。

 だが、3件の骨折後も事故はやまず、今月19日時点では骨折が5件に。市教委によると、組み体操の実施率(予定を含む)は今年度、市立小中学校で62%。昨年度の78%からは減ったが、多くの学校で「花形」の演目であり続けている。

 兵庫県の阪神地域の中学校で長く勤務した校長経験者は「少なくとも50年前には組み体操が盛んだった」と振り返る。「団結心と役割分担を学べる有意義な演目として、現場の教員たちが横のつながりで工夫し、教育現場で長く実践されてきた。上意下達式で急に『やめろ』といわれても、反発を覚える学校関係者は多いだろう」とみる。

技レベル落とす

 神戸市のある市立小は今回、教職員で対応を話し合い、技のレベルを落とし、安全性を高めた構成で実施することを決めた。校長は「しんどいことやつらいことを克服する力を身につけ、友だちと力をあわせてできたことに達成感を味わってほしい」と主張する。

 今年の骨折例は、多人数による大技の「タワー」や「ピラミッド」ではなく、いずれも2人技で起きたという。倒立などに失敗し、手足を地面につくケースが目立つ。

 市教委の担当者は来年度以降の実施について「今年の状況や、指導にあたる教員の負担などを総合的にみて検討する」と説明している。

(川嶋かえ)

兵庫 全国で事故最多

組み体操は都市部で盛んで事故も多い――。大阪経済大の西山豊名誉教授(数学)によると、学校で子どもがけがをした際に支払われる日本スポーツ振興センターの災害共済給付の件数に基づく集計で、そんな傾向がうかがえるという。

 2017年度に全国の小中学校で起きた事故は4418件。うち兵庫県が566件(骨折169人)を占め、3年連続で全国最多だった。大阪府464件、埼玉県361件、福岡県304件、東京都294件と続く。西山名誉教授は「人口が多い都心部は児童数も多く、ピラミッドなどの大きな技をできる条件がそろっている」とみる。

 ただ、全国的には、大技を禁止したり、組み体操そのものをやめたりする学校が広がっている。

 今春、ピラミッドの実施をめぐり「子供の命を助けて」というツイートが拡散し、注目を集めた大阪府東大阪市。これを受け、大阪府教育庁は今年6月、府立学校にピラミッドやタワーの原則禁止を通知した。

 東大阪市では1学期、小中25校がピラミッドに取り組み、最高は中学校8段、小学校6段。ピラミッドによる負傷はねんざの1件にとどまったが、市教委は8月、一転して禁止を決めた。担当者は「賛否があったが、これだけ社会問題になり、子どもの安全を第一に考えた」と話す。

 松山市教委は今年7月、市立小中学校での組み体操をすべて禁止した。東大阪市での騒動がきっかけの一つになったという。今秋の運動会では代わりにダンスなどを行っている。今年から組み体操をやめた兵庫県のある小学校長は「最近は子どもの体力の低下を感じるし、それに伴い演技の統一が難しくなってきた」と語る。

別の方法 検討を

神戸大学・山下晃一准教授(教育学)の話

 教育現場では子どもの安全確保が第一。組み体操のあり方を見直す必要があるのは確かだ。ただ、教育の本質は「できないことができるようになる」という成長にあり、常にリスクがつきものだ。みんなで達成感を味わえる組み体操はそのシンボルのようなもので、学校としてもやめづらいのだろう。先生たち自身が、意義や安全性をいま一度考え、子どもの成長を図ることができる別の方法があるかどうか検討すべきだ。

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