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日本経済新聞 令和元年8月22日(木)朝刊

日本経済新聞 令和元年8月22日(木)朝刊

■神戸市、中心部で新築禁止
人口減でもタワマン頼らず
郊外の持続的発展目指す

全国の都市部で高まるタワーマンション人気をよそに、神戸市は2020年7月に中心部で建設を禁じるなど二重三重の規制に乗り出す。市内人口が減少する中で街全体の持続的発展に腐心しており、郊外の過疎化を招きかねないタワマンの林立を許さない構えだ。

 むき出しの鉄骨に、崩れかけた共用廊下。タワマン規制を議論する際、神戸市の担当者が脳裏に浮かべるのが滋賀県野洲市にある「美和コーポB」だ。築47年、3階建て全9戸の分譲マンション。JR守山駅に近い好立地だが7年ほど前から誰も住まず廃虚状態だ。野洲市は11月、行政代執行による解体に踏み切る。

 管理組合はなく修繕積立金はゼロ。市担当者は「解体費は区分所有者に請求する」と言うが見込みは薄い。低収入の高齢者や物故者などもおり、1億円程度と見積もられた費用の大半に税金が投入される公算が大きい。

優良管理で認証

 神戸市はこれを対岸の火事とみなさず、20年7月からタワマン規制に乗り出す。市中心部のJR三ノ宮駅周辺22.6ヘクタールで新築を禁止。その外に広がる山陽新幹線・新神戸駅やJR神戸駅などを含む292ヘクタールでは住宅の容積率を最大900%から400%に減じ、建設を事実上不可能にする。

 そのほかのエリアなら建設を認めるが、修繕管理体制が行き届いた優良物件のみに絞りたい考え。21年度にも管理組合の運営状況や修繕積み立て計画を審査、認証する全国初の制度をつくる。

 1995年の阪神大震災で神戸には管理不全となった分譲マンションが増え、建て替えに長期間要する事例もあった。住民らの合意形成を支援した戎正晴弁護士は「区分所有者は散り散りになり、管理組合の機能は落ちた」と振り返る。

 総務省出身の久元喜造市長も管理の難しさを知る。霞ヶ関勤務時代に東京都新宿区のマンション(36戸)で管理組合の理事長を務め、修繕積立金の増額決定で苦労した。

 「職住近接」志向や眺望の良さを魅力にタワマンの人気は高い。建設は人口増加に追い風だが、市は中心部が大阪のベッドタウン化し、商業施設やオフィスの集積に影響が及ぶことを懸念する。建物が管理不全となれば、周辺の住環境や資産価値に悪影響も出る。

 ニュータウンから人が流れ、市郊外で空き家が増える恐れもある。市内人口は2011年がピークで、総務省の人口移動報告(7月公表)では18年中に日本人は前年から6235人減った。減少幅は全国の市区町村で最大だ。西日本の中核的都市とはいえ、東京や大阪と違って周辺自治体から市郊外に人が集まるほどの活力はない。

 「何十年後かに中心部が一気に老いて、郊外が過疎化、荒廃するのは悪夢だ」(久元市長)。市は全域の持続的発展のためニュータウンの世代交代を促す。子育て世帯に入居補助金を支給するほか、住宅の店舗やオフィスへの改修を認めて若年層にアピールする。

 一連の施策に、分譲マンション販売会社からは「タワマンを締め出しても郊外に人が集まるとは限らない。近隣都市に人を奪われ税収が減れば、街の持続性にとって逆効果だ」との声も上がる。

札幌市も一致

 タワマンと距離を置くのは神戸市だけではない。札幌市は19年度に中心部でオフィスやホテルの容積率を緩和、開発を誘導し始めたが、マンションは対象外とした。市担当者は「にぎわいを生む大通公園周辺にマンションはふさわしくない」と話す。

 大通公園では60年の歴史がある夏のビアガーデンが営業時間を段階的に短縮している。周辺でタワマンなどが十数棟建って住人が急増、騒音への苦情が出るようになったのが一因だ。市担当者は「将来、この地区の再開発を妨げかねない」とも懸念する。

 都市計画に詳しい東洋大学の野澤千絵教授は「戸建ても集合住宅も『終活』を考える時が来た。人口が減る中で供給が過剰になれば空き家の増加などを招く。街全体の資産価値を守るため、行政が立地を規制するのは理解できる」と語る。タワマンの光と影を直視した神戸市。街づくりの挑戦が始まった。

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