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日本経済新聞 2019年(令和元年)7月12日(金曜日)21面

自治体の動き活発に
制度・慣行を見直そう

神戸市長 久元 喜造

 エストニアの先進的な取り組みを日本でも実現していくために、中央政府や経済界、自治体がしっかり協力し、着実に取り組みを進めていくことが重要だ。
 デジタルな社会基盤をつくるために、当たり前と思っている制度や慣行を見直す必要がある。例えば、日本は投票用紙に候補者や政党の名前を自分で書く「自書方式」だが、同方式の国は恐らく世界でも日本だけだ。電子投票に向けた議論は制度や慣行を見直す契機になる。最も避けるべきは自治体が制度を理由に思考停止になることだ。
 神戸は1945年の大空襲や95年の阪神大震災から市民が手を携えて復興してきた。技術の進歩を活用し、人間らしい都市を目指すのが大きな方向性だ。
 今後やっていかなければならないのは、デジタルテクノロジーを災害対策にどう活用するかということだ。すでに無料対話アプリ「LINE」のチャットボット(自動応答システム)を使い、災害情報を収集する実験を行っている。被害状況を地図上に落とすことにより災害対策が効率的にできるのか試している。
 港町として、高潮や津波から街を守る取り組みも進めてきた。タブレットを利用し、職員が防潮鉄扉を遠隔操作で開け閉めするシステムが実用化している。
 市民からの情報を集約する「KOBEぽすと」という情報共有アプリも実現した。スマートで市民に優しい窓口を実現することをぜひやっていきたい。
行政サービスの高度化には、先進的な企業やベンチャーとの協力が大変重要だ。NTTドコモとは一人暮らしの高齢者の見守りやセンサー技術を使った健康状態の把握、楽天とは電子図書館の設置に取り組んでいる。関西電力の電柱にセンサーを取り付け、人の動きをビッグデータとして蓄積し、今後の効率的なまちづくりに生かそうとしている。

起業家と行政の課題解決

 神戸市はIT(情報技術)スタートアップと協業し、行政課題の解決を目指す官民一体プロジェクトに取り組んでいる。市民が生活しやすい「上質な街づくり」(久元喜造市長)を目標に掲げる。
 「空き時間ができればすぐに子育てイベントを探せる」。神戸市兵庫区の清水香里さん(33)は子育てイベント情報サイト「ためまっぷながた」を6月から使い始めた。開催日時が一覧で分かり現在地から5キロメートル圏内のイベントを地図で探せる。2歳の子を持つ清水さんは「子供の友達づくりに役立つ」と満足げだ。
 同サイトは市がスタートアップと協力して行政課題の解決を目指すプロジェクト「アーバンイノベーション神戸」で通じて生まれた。従来のチラシに比べ、サイト導入後のイベント参加者は約4割増えたという。
 区役所では案内担当者がタブレット端末「iPad(アイパッド)」を携帯し、来客の対応にあたる。案内窓口のデジタル化などを手掛けるACALL(アコール、神戸市)と開発したアプリを搭載している。キーワード検索により最適な行政窓口がすぐ分かる。
 2016年からは米ベンチャーキャピタル(VC)「500スタートアップス」(サンフランシスコ)と組み、起業家育成プログラムを始めた。神戸発のビジネス育成支援が狙いで、日本だけでなく海外のスタートアップも対象としている。18年は過去最高の237社が応募し、海外からの応募が135社に上がった。
 同プログラムに16~17年に参加したスタートアップのうち、38社がVCなどからの資金調達に成功した。神戸市は今年5月、米シリコンバレーに事務所を開設し、スタートアップなどの誘致活動を強化した。
 神戸市には開港以来、国際交流で先行してきた強みがある。進取の気性や開放性をアピールできれば、ITをバネに国際都市として一層の飛躍も可能だろう。

(神戸支社 沖永翔也)

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