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日経新聞 平成31年1月14日(月)朝刊

そして神戸、人口減に挑む
震災24年、街づくりに転機

1995(平成7)年の阪神大震災から17日で24年を迎える神戸市。災害復旧債を完済するなど復旧・復興に一定のめどは付いたが、人口減への対応を迫られている。かつては造成した人工島の用地売却益を再投資するなど企業顔負けの戦略が注目されたが、高成長前提の手法はもはや通じない。既存インフラの活用など「持続可能な都市経営」の模索が始まった。

暮れも押し詰まった12月27日。神戸市の久元喜造市長は阪急電鉄の杉山健博社長と緊急記者会見を開き、市中心部と北部を結ぶ北神急行電鉄(神戸市)の市営化に向け、筆頭株主の阪急電鉄と協議に入ると表明した。
三宮駅と北区にある谷上駅との間は10分程度だが、運賃は540円と高額だ。接続する神戸電鉄の沿線を含め、同区は15年時点の人口が5年前から3%減った。市営化で「運賃を下げ、乗客を増やす」(久元市長)。
1970~80年代には先進的な都市経営が「株式会社神戸市」の異名を取った。山を削り人工島やニュータウンを造成。用地売却などで得た収入を基金などに蓄えて活用し、外債も発行した。

市街地面積倍に

自治体の単年度会計の制約を打ち破る大胆な投資で、市全体の1割程度と狭かった市街地の面積は市の開発事業で倍の約2割に増えた。50年に80万人だった人口は93年に150万人を超えた。
しかし、人口増が前提のモデルは「震災前に限界がきていたのかもしれない」(久元市長)。戦略の転換を図る時期に、震災からの復旧・復興へ傾注を迫られた。
市の人口は震災後の急減から一時は回復したが、12年から減少が続く。15年に福岡市に抜かれて政令市6位となり、19年は7位の川崎市にも抜かれる可能性が高い。
震災前までに蓄えていた基金のうち財政調整基金や都市整備等基金などから約1800億円を取り崩して震災以降の財源対策に充てた。財政調整基金は00年度前後にゼロになった時期がある。

既存インフラで

市が発行した約2千億円の災害復旧債は16年度に完済。財政上の足かせは減ったが、財政の需要と収入の割合でみる財政力指数は17年度でみると20ある政令市のうち5番目に低い。
市街地の開発・拡大で収入を得て予算を支える手法は困難な時代となった。広げた都市の機能をどう維持するか。人工島などの造成を進めてきた同市みなと総局は「既存インフラを生かす工夫が大事になる」と発想を転換し始めた。
神戸市は都心部である中央区や灘区、ニュータウンや農園を抱える北区や西区、中小企業の町でもある長田区など多様な地域を抱えるのも特徴。人口の減少傾向は都心部以外で目立つ。
西区には1982年から入居が始まった西神中央などの大型ニュータウンが多い。区内の市開発の主なニュータウンの人口は約10万人に上るが、当時の入居者が一気に高齢化する。市は、市営地下鉄の西神中央駅近くに文化施設を建設予定。駅周辺には高齢者向け施設も整備、空き家に若い世代を呼び込む策も練る。
長田区は集積していた靴工場などが震災で打撃を受け、16年の事業所数は震災後の96年と比べても約3割減。15年の人口も10年比で4%減った。「下町の魅力を生かして観光などの来訪者を含む人口を増やしたい」と加藤久雄区長は語る。県と市は同区に6月、9階建ての合同庁舎を完成させる予定だ。来庁者は年間約30万人を見込む。
広がった市のインフラや社会保障を維持するため、限られた税収などをどう配分するか。「選択と集中」に向けて、優先順位などを全庁横断的に検討する体制も不可欠になる。

大都市の先行例

都市経営に詳しい京都大学・諸富徹教授の話
「神戸市が人口減のなかで今のサービスを広範囲で維持すれば負担は大きい。中心部でどう稼ぐかも課題。タワマン規制は挑戦的な試みだ。政令市の中では危機感が強いと感じる。新たな都市経営に成功すれば日本の大都市の先行例になる」

マンションよりオフィス
ベッドダウン化回避へ

「規模を追うより、市のブランド力を高めたい」(久元喜造市長)とする市が、郊外などの人口減対策を進める一方で再開発に注力するのが都心・三宮だ。
新たな取り組みが「タワーマンション規制」。新設禁止エリアの設定を含め大規模マンションの建設を抑制する条例を2020年度にも施行したい考えだ。
「神戸を大阪のベッドタウンにしない」との思いを久元市長は条例に込める。都心部のマンションはなお人気が見込めるが、市はオフィスや商業施設の集積を目指す。
神戸市の人口を超えそうな川崎市は人口集中が続く東京近辺で人気を集める。一方、関西は東京ほどの人口集中圏ではない。神戸市では三宮周辺を広く人や企業が集まる「稼げる街」とし、大阪などへの人口流出を防ぎつつ、市全体の都市機能を保つ求心力を高めようとしている。
駅周辺では阪急電鉄がビルを建て替えるなどの動きはあるが、構想段階の開発計画も目立つ。新幹線の新神戸駅や、人工島にある神戸空港と三宮を結ぶ交通網の強化など課題は多い。
神戸商工会議所の家次恒会頭(シスメックス会長兼社長)は市に「インフラに積極投資を」と呼びかける。低金利の今、借り入れ手段の検討も促すが、市は財政規律も考慮する現状だ。
16年の市の事業所数は09年を8%下回る。法人市民税収入は09年度に300億円を割ったまま横ばい傾向だ。25年の大阪万博開催で関西への関心が高まる好機を生かして都心部に企業を呼び込み、次代への道筋を描けるかが今後の都市競争力を左右しそうだ。

(神戸支社 福田芳久、沖永翔也)

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