久元 喜造ブログ

小山俊樹『五・一五事件』


海軍青年将校たちの「昭和維新」」のサブタイトルにあるように、主役は日本海軍の青年将校たちでした。
1932年(昭和7年)年5月15日夕刻、海軍の青年将校と陸軍の士官候補生たちは、4組に分かれ、総理大臣官邸で犬養毅首相を銃撃、さらに内大臣官邸、政友会本部、日本銀行、三菱銀行、そして警視庁を襲撃します。
本書では、「日曜日の襲撃」の模様が克明に描かれます。
犬養首相銃撃とその死の様子は、子息の犬養健(当時首相秘書官)、孫の犬養道子(1921 – 2017)などの証言をもとに再現されています。

事件の背後には、海軍将校たちの「国家改造運動」がありました。
主導的な役割を担ったのは、5・15事件の直前、第1次上海事変で戦死した 藤井斉(1904 – 32)でした。
藤井は、海軍軍縮条約に深く失望し、国家改造を唱える頭山満、西田税、さらには北一輝、井上日召、大川周明などと接近、海軍内で昭和維新を断行する青年将校たちを糾合していきます。
藤井に心酔し、事件を決行したのが、海軍中尉の三上卓(1905- 71)、同じく古賀清志(1908 – 97)たちでした。
実行者たちへの処分は、2・26事件と比較しても極めて甘いものでしたが、その背後には、腐敗した政党政治、財閥支配に対する国民の激しい怒りがあったとされます。
首謀者の三上卓は戦中、戦後を生き、1953年の参議院全国区選挙に立候補したことも、初めて知りました。

5・15事件後の背後にあった海軍上層部の思惑と行動、事件後の政治の動きも生々しく描かれます。
事件当時の日本社会のいわば体温のようなものがひしひしと伝わってきて、興奮を覚えました。(文中敬称略)