久元 喜造ブログ

山中俊之『外国人にささる日本史12のツボ』


神戸情報大学院大学教授、山中俊之先生の近著です。
世界96か国を回られた外交官としてのご経験を通じ、外国人が日本の歴史のどのようなところに関心を抱くのかについて語られます。
外国人は、長い年月を経て育まれてきた日本の生活文化をどう見ているのか。
この視点は、私たち日本人が自らを客観視し、独善を排しながら日本文化の特質を考える上で有益です。

最初に語られるのは、日本人なりのありようで受け継がれてきた自然との共生です。
その背後には、一神教を奉じる人々とは異なる宗教観があると、著者は指摘します。
多くの神社・仏閣は、神仏習合を基調としています。
神戸には豊かな里山があり、そこには自然と文化遺産が一体となった魅力があります。
改めて私たちは、時代の変遷を経て受け継がれてきた神戸の里山の価値を再認識したいと思います。

本書で繰り返し登場するのは、江戸時代です。
江戸時代には豊かな文化が花開きました。
著者は、葛飾北斎に1章を割いていますが、それは世界で最も有名な日本人が葛飾北斎であるという認識からです。
北斎をはじめとする浮世絵は、印象派などヨーロッパ絵画に大きな影響を与えました。
江戸時代の価値は、文化芸術にとどまりません。
江戸の街では堆肥に至るまでさまざまな資源が再利用され、「サステナブルなエコ社会だった」と著者は言います。
幕府の経済政策は意外に開明的で、庶民を含めた教育水準は高く、賄賂も少ない清潔な行政が行われていたと著者は指摘します。
時代劇の悪代官などはおそらく後世の作り物なのでしょう。
明治の近代化は画期的な意義を持ちますが、その絶対視から自由になり、江戸時代を見つめ直すことができました。