久元 喜造ブログ

岡義武『独逸デモクラシーの悲劇』

160103
世界史的に見て最も民主的な憲法を持ったワイマール共和国がなぜ短期間に終焉し、しかも、ナチスドイツという忌まわしい政体にとって代わられたのか。
この重いテーマについて、20世紀を代表する政治史学者、岡義武(1902 – 1990)が、戦後間もない1949年に著した論文です。
戦後民主主義の熱気、騒然とした時代の空気が影響したのか、論文は高揚した文章で閉じられます。

「ワイマール共和国の短い歴史、それは不幸の中に生れ落ち、不幸の中に生き、そして夭折した一人の薄幸なるものの生涯に似ている。・・・ここに疑もなく明白なことは、自由は与えられるものではなくて、常にそのために闘うことによってのみ、確保され又獲得されるものであるということである。そして、そのために闘うということは、聡明と勇気とを伴わずしては、何らの意味をもち得ぬということである」

三谷太一郎先生の解説が掲載されていますが、たいへん分かりやすい内容でした。
とりわけ、「議会およびそれを動かす政党が権力の主体として十分に機能せず、したがって体制の求心力がきわめて弱かった。そのことは、ドイツ帝国の「外見的立憲制」の下での帝国議会から受け継いだ政治的遺産が貧しかったことを意味する」との指摘が印象的でした。。
この点こそが、岡のこの論文、そして、本書において初めて収録された処女論文「環境に關連して観たる十九世紀末独逸の民主主義運動」(1928年刊)の核心であるように思われました。(文中一部敬称略)