久元 喜造ブログ

天下泰平の時代

takano
ともすれば過去への関心は、源平の争乱、戦国時代、幕末など戦乱の時代に向かいがちですが、社会制度や慣習は、平時に整備され、形成され、今日まで受け継がれてきた側面が大きいことは確かです。
高埜利彦『天下泰平の時代』 (岩波新書)は、17世紀半ばから18世紀半ば過ぎまでの泰平の時代を扱い、現代との連続性を語ります。

通読して感じることは、この間の為政者が、かなり明確なビジョンを持って政(まつりごと)に当たっていたことです。
家光没後、家綱政権は、戦時から平時への体制転換を図ります。
平時においては、牢人を発生させないことが肝要であり、由比正雪事件を受けて大名改易を防ぐ手立てなどを講じました。

将軍綱吉による悪名高い「生類憐みの令」も、この文脈で理解できます。
戦場においては、敵兵を殺傷する行為に価値が置かれますが、これを改め、泰平の世にふさわしい価値観に転換させようとしたのだと、筆者は解釈します。
その結果、かぶき者による飼い犬の斬り殺し、武士による犬喰い、野犬の捨て子襲撃などが見られなくなりました。

この時代の歴代政権は、平時にふさわしい官僚機構、法令の整備を進めます。
吉宗政権による享保の改革により、ごみ処理、火消しなど都市行政の体制がつくられていきました。
従前、都市居住者は、多様な労働を課せられていましたが、改革により、専門に請け負う職業集団が現れたことで、金銭により労働力を購入する姿に変わっていきます。

価値観の変容を促しながら、合理的な政策が展開され、統治体制の整備が進んでいく様子に、とてもわくわくしました。