久元 喜造ブログ

『イーハトーブの風』 ― 私の好きな曲⑨

震災20年記念事業の一環として、東北のみなさんが参加されたコンサートが何回か開かれました。
そのようなコンサートで、この素敵な曲に出会いました。
作詞・作曲は、岩手県出身のシンガーソングライター、あんべ光俊さんです。

イーハトーブ」 とは、宮沢賢治の造語で、美しい自然が息づく理想郷のようですが、宮沢賢治は、詳しい記述を残していません。
あんべ光俊さんは、「金色に輝く峰や 魚たちのぼる川」と歌い出し、自らの言葉と音楽で、この理想郷を、私たちの前に示してくれます。
そして、この理想郷に暮らす人々は、美しい世界に囲まれ、美しいものを見ているから、澄んだ眼をしているのだ、と続けます。

イーハトーブの国の人は 美しいもの見ているから
イーハトーブの国の人は 澄んだ眼をしているのだろう

この理想の国では、光と水と森の精が生命を実らせ、大いなる時のゆりかごが自然のハーモニーを紡ぎます。
しかし、人々は永遠の生命を獲得しているわけではありません。この国の人々は、生命が有限であることを知っています。

イーハトーブの国の人は 生命のはかなさ知ってるから
イーハトーブの国の人は  やさしく微笑むのだろう

この歌は、私たちの手の届かない理想の姿を、はるか彼方の世界として歌い上げているのではないように思えます。

自分自身が、悠久の時間と美しい自然の中に生かされていることに気づくとき、理想の国は、私たちの心の中に現出し、そのような心を持った人々が集うとき、私たちの世界は、理想郷に近づくことができる、というメッセージなのではないでしょうか。