「SMBCマネジメント+2017年6月号」(特集「新・神戸ブランド」への挑戦 ~次世代イノベーター集積戦略~)

SMBCマネジメント+2017年6月号 P.6~P.9
特集「新・神戸ブランド」への挑戦 ~次世代イノベーター集積戦略~

神戸市長 久元喜造氏に聞く
「若者に選ばれるまち」づくりへ
国際的な都市間競争で勝つ

港湾都市から重厚長大産業都市、ファッション産業都市へと発展してきた神戸。震災を乗り越え、新しい都市づくりにアクセルを踏み出した。「常に新しい産業を興し、若者を呼ぶ街にしていきたい」と語る神戸市長の久元喜造氏に、今後の神戸市像について聞いた。

─神戸市は日本で有数の港湾都市として発展し、かつては「株式会社神戸市」と呼ばれるほどのアグレッシブさが、全国の自治体から注目されていました。

市長 相当強い個性を持った街だと思います。ロケーションに恵まれ、海と山の間に囲まれた細長い市街地には、おしゃれな街並みが形成されています。今年は神戸港が開港されて150年。明治時代から国際港湾都市として発展してきた神戸には、常に外のものを取り入れ、吸収し、自分たちの産業や商品、サービスに生かしてきた地域風土があります。
 1995年の阪神・淡路大震災以降、この約20年間に、震災からの復旧、街の復興、危機的な財政の3つの試練を乗り越えました。果敢にスピード感をもって行動する気風が発揮されたと思います。同時に、市民もたくましく成長しました。自分たちで街を再建しよう、助け合い、励まし合って街を進化させていこう。そんな気風が醸成されました。これらこそが神戸の大きな強みです。
 外に開かれた港町として常に想定外の事態に対して機敏に対応するスタンスを持ち、「進取の気風」で時代の変化に合わせ、磨きをかけ続けていく。そんなDNAが神戸には脈々と受け継がれています。

─自治体といえども、企業と同様、常に革新を意識しなければ衰退する恐れがあります。これからどんな都市を目指しますか。

市長 神戸はアジアパシフィックの中にいます。オーストラリアや中南米、米国の西海岸などを含めて、魅力ある、個性ある都市がたくさんあります。こうした大都市は今、国際的な人材獲得競争の中にいます。次代を担う、すばらしい人材を惹きつけ、都市間競争に勝たなければなりません。こうした競争の中で、神戸のこれまでのブランド力にさらに磨きをかけ、進化させていくことが大事です。
 目指すべきモデルの都市はありません。真似ではなく、神戸の歴史を自分たちで勉強し、徹底的にあるべき神戸像を議論して、想像力を働かせ、将来にはこんな都市でありたいと考え抜いていきます。
 私たちは未来に対して大きな可能性を持っていますが、市政は夢だけを語るわけにはいきません。私たちは今、人口減少の時代に生きています。2015年の国勢調査によると、神戸市の人口は5年間で6900人あまり減少しました。この人口減少をいかに食い止めるかが課題の一つです。だからといって、いたずらに都市の規模を追求するのではなくて、グレードの高い街づくりをして、外から人を呼び込み、かつ、今住んでいる市民の皆さんに神戸に住み続けてもらう。その両方が大事です。
 わくわくする魅力的な都市のコンテンツを創造する一方で、日常を豊かなものにするため、行政サービスの質を着実に引き上げていく。特に子育てをする環境を着実に整備していきます。両面が必要なのです。
 昨年作った「神戸2020ビジョン」では、「若者に選ばれるまち+誰もが活躍できるまち」をスローガンに掲げました。

若者に選ばれ、新産業を興す
ダイナミックな都市創造を

─若者に選ばれる街であるためには、何が必要になってきますか。

市長 日常性と非日常性の両面で魅力を作るとともに、いろいろな切り口で人材を育成し、産業振興と結び付けていきます。民間事業者の皆さん、行政、大学などとの緊密な連携協力が必須です。
 グローバルな人材獲得競争の時代の中で、人材育成と産業振興をリンクさせた具体例は、ポートアイランドに集積している「神戸医療産業都市」です(10ページ参照)。国の研究機関である理化学研究所を中心とした発生科学の研究や、iPS細胞を使った網膜の再生などの取り組みが進んでいます。研究機関だけでなく330もの医薬品関係の企業、大学、病院など様々な連携が行われて新しい産業を興し、人材を育成し、雇用や税収の面で成果が上がっています。

─起業家を支援する動きも始まりました。

市長 市長に就任以来、「神戸は新しいビジネスを起こすチャンスがある街だ」と思ってもらえるような取り組みを進めてきました。その具体例が、米国シリコンバレーのベンチャーキャピタル「500スタートアップス」との連携です(12ページ参照)。
 昨年、同社のプログラムを日本で初めて神戸で実施しました。世界で活躍する様々な専門家がメンターとなり、革新的な起業・創業を支援します。投資家の前で、一人当たり2分でプレゼンテーションし、ビジネス展開につなげていく。見ていて、わくわくしました。すごい緊張感と小気味良いテンポ、スピード感がすばらしかった。発想力が勝負で、新しいアイデアでニッチな産業を狙っていく。投資家たちに魅力を伝えないと誰も投資してくれません。

─神戸で起業家を増やす狙いですか。

市長 起業家たちを神戸に囲い込もうとは思っていません。グローバルな活躍をしている人材や企業は、国内外に複数の拠点を持っています。神戸から一歩も出ないで活躍してくださいという発想では、国際都市の人材育成や産業育成の観点で、あまりにも視野が狭い。
 むしろ神戸は「常に開かれていて、新しいことが始まる街」としての認識を広げたい。常にグローバルに活躍する人材が神戸に入ってきて、世界に雄飛して、また神戸にも拠点を作ってもらう。そんなサイクルができていくのが理想です。
 人の生き方は多様で、国際都市は多様な生き方を尊重するもの。異なる考え方や理念、人種・宗教・文化・生活様式が多数存在していて、お互いに触発し合ってシナジーを生んでいく。それこそが大都市の魅力です。神戸はもともとそんな土壌を持っていますが、その上にさらにわくわくする刺激や新しいものが常に生まれていくダイナミックな都市を築き、神戸の新たなブランド価値を創っていきたい。
 大都市の顔には様々な側面がありますが、多様性という言葉に逃避してはいけません。多様というのは何も語っていないと同じだからです。発信をするときにメッセージ性を大切にする。港湾都市として発展し、未知の世界に対して挑戦してきた、それによって獲得されたブランド力があり、それにさらに磨きをかけて発信していくことが、神戸のメッセージなのです。

創造力強化に必要な外部人材
多言語での情報発信も検討

─市政にも、異業種、異分野から人材を呼び込んでいます。

市長 創造力を生み出す土壌にするためには、違う生き方や働き方をしてきた人を呼ぶことが助けになります。市長就任以来、いろいろな任用形態で外部の人材に来ていただいています。デザイン分野から来ていただいたクリエイティブディレクターには職員がよく相談に行き、これまで役所的発想で作っていたポスターが大きく変わりました。地下鉄のホームに空いていた広告スペースをすべて神戸市の広告で埋めました。「アライグマやイノシシが出たら…」「ごみの分別は…」など共通のデザインで広告を作ったことで、地下鉄のホームの雰囲気がかなり変わりました。
 ホテル出身の女性や、ALT(外国語指導助手)として英語を教えていた英国人を、広報専門官に任命してきました。すでに海外向けの発信などで成果を上げています。今までとは違う目で神戸の良さを発見し、発信してくれます。また、市役所の人材を国や民間企業に派遣する仕組みもつくりました。神戸という街を新しくデザインしていくためには、それを担っていく人材がとても重要です。これは企業経営にも同じことが言えるのではないでしょうか。

 

「災害復旧債」を完済
三宮周辺の再開発にも着手

 神戸市は、東灘・灘・中央・兵庫・北・長田・垂水・須磨・西の9区から構成される政令指定都市。人口は153万人、世帯数は71万(2017年4月1日)。人口は全国の政令都市のうち第6位だが、ここ数年、わずかながら人口減少が続いている。

 神戸市が「県民経済計算標準方式( 内閣府経済社会総合研究所)」に基づいて推計した、2014年度の「神戸市内総生産(神戸市GDP)」は6兆2,178億円(前年度比:名目で3.2%増、実質で1.9% 増)。経済規模は横浜市の約半分。

 神戸は、港湾都市ならではの輸出入拠点として、鉄鋼や造船、機械、ゴムなど、いわゆる“重厚長大”産業を中心に発展してきた。今後の経済発展のためには、新しい産業の誘致、発展が望まれている。

 神戸市は「ポートアイランド」「六甲アイランド」など人工島を作って企業誘致を進めるなど、かつては積極的な自治体経営で名を馳せた。しかし、1995年1月17日に発生した阪神・淡路大震災で甚大な被害を受け、財政上の制約などから様々な計画が中断を余儀なくされた。ただし、2017年3月末までに、公共施設などの復旧に充てるために発行した災害復旧債1,996億円を完済した。震災関連の市債残高は全体ではまだ残っているものの、震災から20年以上を経て、財政面では一定の区切りが付いた。神戸市としては新たな施策を進めやすい状況になってきた。

 神戸の玄関口「三宮周辺地区」の再整備も始まり、若者を呼び込めるような大型商業施設も計画されている。再開発で一歩先んじた大阪市に流れがちだった若者たちの消費行動を再び神戸に振り向かせられるかも、今後の注目点である。

開港150年の神戸港
クルーズ客船も次々に寄港

 1868年(慶応3)に開港し、2017年1月1日に開港150年を迎えた神戸港。年内は、記念式典や海フェスタ、帆船フェスティバルなど様々なイベントが続く。

 久元市長は、神戸の将来像を語る際に「港の復権が必要」と説く。2017年2月には「神戸国際港湾会議」が開かれた。欧米とアジアの18カ国・地域の28港が参加。神戸市は8カ国・地域の11港と連携する合意書(MOU)を交わした。

 世界的な船の大型化に対応する国際コンテナ戦略港として整備を進める。その一方で、「グレードの高い客船クルーズを呼び込みたい」(久元市長)と、インバウンド観光客の誘致も進める。今年3月には、「クイーン・エリザベス」が日本初の発着クルーズを神戸で実施した。これまでも年間、約100隻の外航客船が入港していたが、今年は寄港数が増え、歓迎行事も増える予定。

 神戸市は、ハーバーランド、メリケンパークを含めたウォーターフロントに賑わいを創出することにより、港を市民にとっても身近な存在とし、「人で賑わう神戸港」を実現するとしている。

 また、空港(神戸空港)を持つ港である強みを活かし、海と空の「みなと」の相乗効果により、活力と魅力があふれる「みなと」を創造する。

神戸の「食ブランド」を強化
農業都市の利点を活かす

 世界的に知られた「神戸牛」に代表されるように、神戸の「食」ブランド力は高い。神戸市はこの強みをさらに伸ばそうとしている。2015年度から「食都 神戸2020」構想を推進し、神戸産の農水産物をはじめとする「食」の海外展開に取り組んでいる。海外での展示会出展や「神戸いちご」や「神戸いちじく」の輸出など、神戸ブランドの食を世界に発信している。

 神戸の中央卸売市場は規模が大きく歴史がある。全国各地からいろいろな食材が集まってくる。地産地消という面では、神戸・淡路エリアには豊かな海産資源もある。市内では、東遊園のファーマーズマーケットや道の駅「神戸フルーツ・フラワーパーク大沢」が人気。「市内や近隣で産出する農産物、海産物、酒、スイーツなど神戸の地産地消のグルメもさらに発信していきたい」と久元市長は意気込む。食を通して賑わいのある街づくりを進めている。

 久元市長は「神戸は農業都市でもある」と強調する。「六甲山の北側には里山が広がり、かやぶき民家が多い。消費地に近い場所で野菜やフルーツ、花、米が育っている。神戸産のいちごはスイーツに使われ、海外にも輸出されているほど。灘の酒にも、神戸生まれのビールにも、神戸近辺の食材が使われている。神戸の飲食店の種類は豊富で、国際色豊か。下町の味としてお好み焼きやそばめし、ぼっかけもある。多彩なカテゴリーのある神戸の食文化を、民間事業者のみなさんと一緒に育て、新たな神戸のブランドとして発信していきたい」と語る。

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