3月15日の日経新聞「私見 卓見 OPINION」に、拙文が掲載されました


公務員の経験、地域で生かせ
神戸市長 久元喜造

 国家公務員の「天下り」が国民の厳しい批判にさらされている。違法行為はなくしていかなければならないが、退職した公務員の知識・経験を活用し、社会が抱える課題に取り組んでもらえるようにするという前向きの視点も必要だ。
 家族や地域社会のありようが変容するなかで、地域ではさまざまな課題が噴出している。ひきこもり、孤立死に象徴されるような都市の中の孤独への対応、子どもの居場所づくりや学習支援、高齢者の見守りなど、地域社会は多様で複雑な課題への対応に迫られている。
 これらの課題に対して地方自治体はもちろん全力で対応にあたっており、自治会、民生委員などのほか、さまざまなNPOが献身的に活動されている。このような行政による対応や無償のボランティア活動に加え、民間の事業として社会的課題の解決に取り組む「ソーシャルビジネス」の必要性が唱えられて久しいが、まだ十分に展開できているとは言えない。
 そこで期待されるのが、自治体職員が職務を遂行する職員としてではなく、市民としてこうした活動に参加することだ。これまでも、自治会の役員や消防団員など地域の活動に従事してきた職員は多いが、さらに進んで、ソーシャルビジネスを起業したり、企業やNPO法人が運営する事業に従事したりすることが考えられてもよいのではないだろうか。
 神戸市では、職員が報酬を得てこれらの活動に従事することができるよう、地方公務
員法に基づく営利企業従事制限の許可について柔軟に運用することとした。もちろん、職務の公正性が損なわれることのないよう、許可の段階でチェックするとともに、受け取ることができる報酬の上限を設けることとしている。
 職員がこのような事業に携わることは、経験を広げ、自治体職員としての仕事への取り組みを豊かなものにする可能性もある。
 さらに中高年職員が徐々に勤務時間を減らし、勤務時間外にソーシャルビジネスに携わることができる時間を増やしていくことも考えられる。高齢社会の中で、第二の人生において、職員のときとはまた異なるアプローチで地域の課題解決に貢献できるよう、第一の人生からの円滑な移行を図っていく試みだ。自治体職員として培った豊かな経験を、さまざまな形で地域に生かしていただきたい。

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