1月15日の神戸新聞に、拙著『ひょうたん池物語』に関する書評が掲載されました

290115kobe
神戸新聞 平成29年1月15日(日)朝刊
ひょうご選書
ひょうたん池物語 久元喜造著
いま再び 少年時代を生きる

 帯文に「神戸市長、描き下ろしファンタジー」とある。これは面白い。この国ではめったにないとても珍しい新鮮な印象を見る人々に与えるだろう。私も市長さんが童話を書いたなんて聞いたことがない。逆に神戸市長ってどんな方かと思う人が多いかもしれない。
 物語は大阪万博のあった1970年代、神戸近郊にもまだのどかな里山があった時代の「ひょうたん池」が舞台。折から高度経済成長のなかにあって、猛烈な勢いでこの近郊も自然が失われ都市化され、「ひょうたん池」のたくさんの生き物たちも危機に瀕していく。その様子が丹念に描かれた本格的なお話で、いいショックを受けた。
 神戸は海沿いとともに六甲山系の山の自然にも恵まれた都市。その里山の「ひょうたん池」に棲むのはドンコのどんた、ふなのふなじい、カワバタモロコほか水辺に棲むマムシやスズメら多くの生き物たちだ。なんとなく宮沢賢治の「イーハトーブ」の童話の世界を重ねたりもした。
 団地が建って、この住み慣れた池や里山を追われた彼らは近くの川や雑木林に集団移動をはじめる。どんたが「僕は魚だからこの池と運命をともにするよ。でも動けるみんなは安全な場所に逃げて」と言い、マムシは「おじいちゃんのおじいちゃんの、そのまたおじいちゃんもここで生まれて死んだんだ。僕もここで死ねたらそれでいい」というと、「何言ってるの!大事なのは場所じゃないでしょう。脈々と受け継いだその命を守りなさい」というモロコの言葉は圧巻だ。励まされて彼らは新しい居場所を求め行動を起こしていく。
 そして、登場する村の子どもたち、よしお、きよし、じろうの3人組。その中のひとりに作者の<私>がいる。神戸っ子の現役の市長さん自身、どこか今でもあの頃の懐かしい自分自身の少年期に戻りたかったのだろう。単なる思い出にはしたくないから童話というジャンルを借りて今いちど少年時代をそのまま生きておきたいと思ったのだろう。私も根っからの神戸人だけに思わず、ずいずい引き込まれてしまった。童話といえばふつうは子どものための物語だがこれは、大人にもどんどん読んでもらいたい。市長さんにはぜひ次作を期待したいものだ。

評者=たかとう匡子(まさこ)・詩人
(神戸新聞総合出版センター・1296円)

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