月刊ガバナンス2017年1月号 連載「平成にっぽんの首長 自治の自画像」第118回

月刊ガバナンス 2017年1月号
連載 平成にっぽんの首長 自治の自画像 第118回


阪神・淡路大震災から22年。神戸市はいま試練の20年を乗り越え、新しいステージを迎えている。ITとイノベーションで「若者に選ばれるまち」づくりをめざす久元喜造市長(62)に聞いた。

阪神・淡路大震災から22年
1995年1月17日未明に阪神・淡路地域を襲ったマグニチュード7.3の直下型地震は、神戸市が戦後に築き上げてきた都市インフラを悉く破壊した。死者4571人、建物被害は全・半壊合わせて12万棟を超えた。避難者はピーク時、24万人近くに達した。
 この1月17日に阪神・淡路大震災から22年となる神戸市のいまを、就任4年目の久元喜造市長に聞いた。
「2015年がちょうど震災20年、振り返れば試練の20年間だった。
 私も神戸で生まれ育ったが、それまで神戸での地震の経験はほとんどなかった。神戸では地震が起きないと多くの市民が思いこんでいた。神戸市の先見性がある職員は神戸で地震が起きる可能性を想定したプランを作っていた。しかし組織内では共有されず、ましてや市民が足下の活断層の存在を知ることもできなかった。充分な備えがないままに突然の大震災に襲われて壊滅的な被害を被った。それ故に、震災復旧と復興に大きなエネルギーが費やされた。
 もう1点は、東日本大震災に比べて国の支援措置が非常に薄かったために神戸市はたちまち財政危機に陥った。そこで極めて厳しい行財政改革に取り組んだ。この20年間に職員を33%削減した。この間、地方行革による全地方公務員の減少率は16%。神戸市は全国の約2倍のペースで職員を減らしてきた。
 神戸市はこうした試練を乗り越えてきたということです」
 確かに、震災翌年度の震災関連事業費は約2兆8800億円にも達し、事業費の約半分を市債で調達せざるを得ず、市債残高が震災前の2倍以上に膨れ上がった。その後は厳しい財政運営を余儀なくされてきた。
 その反面、復旧・復興のスピードは非常に早かったという。
「市民と行政の連携で神戸の街はかなり早い段階で復興した。地震発生から2か月後に六甲道、新長田の震災復興市街地再開発事業の都市計画決定を行った。これは驚くべきスピード。当時はまだ避難者がたくさんいるなかでなぜ街づくり事業を急ぐのかという批判が相当あったが、長い目で見れば妥当な決定だった。
 様々な手法で住宅供給を進めたことで、仮設住宅を4年11か月で解消することができた。いまだ復旧のめどが立っていない東日本大震災の被災地と比較することは憚られるが、神戸はかなり早いスピードで復興できたと言える」

残された課題に終止符を
久元は就任当初から、街は完全に復興したが、いくつかの残された課題があると指摘していた。
ひとつは災害援護資金貸付金の償還問題だ。被災世帯の生活資金として350万円を限度に貸し付けられた。償還期間は10年で05年が返済期限だったが、所得と資産状況から毎月の返済額に無理が生じる人には償還期間を延長して少額償還とした。
「私が市長に就任した13年時点で、かなりの償還金が残っていた。償還期間を3回延長したが、その後も返済できない方がたくさんおられる。返す意志のある方はたくさんいて、細々とした生活のなかでやり繰りしながら毎月1000円ずつでもといって返している。国は返せる人からは返してもらえばいいという考え。しかし、高齢となり、年金収入だけの方も増え、低所得化している。
 これだと完済に100年かかるし、少額償還者については、総合的に判断して償還免除すべきではないか。私は当時の貸付条件が東日本大震災と比べて厳しかったことも勘案すべきだと訴えた。国は償還金を免除することには非常にガードが堅かったが、国と強力に折衝を重ねた。国の理解も得られた結果、約100億円の償還金免除ができた」
 国は15年4月に返済期限10年経過後の免除対象要件を拡大し、少額償還者の取り扱いは自治体が判断できると通知。神戸市は「被災者の生活再建を最優先し、新・法定免除制度を最大限に活用して速やかな免除事務を進める」とした。
「この1年間で、償還金約200億円のうち、100億円を償還免除、60億円は返済中、40億円は償還免除をしてもらうべく国と交渉している。残るいくつかのカテゴリーの方の償還免除を粘り強くやっていく」

1000人規模の合同庁舎を
もうひとつの残された課題は新長田の再開発地区の活性化対策だ。
「新長田地区の居住人口は震災前を上回っている。しかし、街の賑わいが戻っていないことと、就業人口が以前を下回っている現実がある。
 15年9月に兵庫県の井戸敏三知事と協議し、新長田地区南にある再開発事業用地に県と市の合同庁舎を建設することで合意した。県と市の税務部門、街づくり住宅部門をここに集約し、1000人の職員を勤務させる。現在、新長田の再開発地区内の就業者数は3500人。これに1000人規模が上乗せされる。職員だけでなく、税関係部門なので多くの市民が手続きに来庁するので、街の賑わいにつながる」
 合同庁舎は8階建ビルを新築する。完成は19年度の予定だ。
 もうひとつ、震災の記憶・経験をどう継承していくのかの課題もある。
「震災から22年が過ぎ、すでに市民の半分近くは震災を知らない。震災を知らない職員も52%を占める。歳月が過ぎていくのは止めようがないが、今後どのように震災の経験や記憶、思い、そして災害の教訓を後世に伝えていくかが大事。15年は震災20年の節目としてさまざまな啓発事業を行った。また、新採用職員の研修では、震災の経験と教訓を伝え、危機に対応できる能力を培うために、災害時にそれぞれの立場でどのような役割を果たすかをシミュレーションしてもらう『震災ロールプレイ研修』を02年から行っている」

神戸復活の狼煙を
「震災復興の残された課題については、最終的な解決の目途がつき、終止符を打つことができた。今後はこの間、取り組むことができなかった課題に挑む。復興という大きな試練と格闘している間に様々な新しい行政ニーズや都市として発展していくために必要な課題が生じていた。財政再建の目途も立ったので、今後は神戸を新しいステージに押し上げていくために、神戸復活の狼煙を上げていく。いまその時が来ている」
 16年3月に策定した市の基本計画『神戸2020ビジョン』は「若者に選ばれるまち+誰もが活躍するまち」をテーマに、135の政策を掲げ、全体目標として「年間1万2000人の出生数を維持する、若者の神戸市への転入を増やし、東京圏への転出超過年間2500人を解消」と明記している。
「神戸市の人口は減少に転じた。原因は神戸は関西圏の中心都市ではなく、ブロック中心都市が周辺地域の人口を集めるという人口動態のトレンドに乗り切れなかったことに加えて震災の影響も大きい。
 しかし、25の大学・短大がある神戸は若者が集まるまち。今後も引き続き、若者が学び、働き、住み、若者に選ばれるまちであり続けるためには何をするのかをまとめた。
 昔のように山を削って海を埋め立てて海上文化都市を造る時代ではない。各分野の政策をバランスよく総合的に展開していく上で、切り口となるのはやはりITとイノベーション。ビジネスの世界でも行政でもITとイノベーションは重要な鍵を握る。いろんな分野のイノベーションを生みだす新たな起業・創業を目指す若者を支援していく。
 たとえば今年度は神戸でビジネスを始めたいクリエーター、IT関係者、学生に参画いただき、『スタートアップオフィス』を立ち上げた。さらに、米国の『500 Startups』とパートナー協定を締結し、シリコンバレー流の起業家育成プログラムを神戸で展開した。海外の参加者もいた。若者が世界を目指して神戸で育って羽ばたいていく。『若者に選ばれるまち』は神戸で働いてもらうというだけでなく、神戸を選んで神戸から育ってもらう仕掛け、雰囲気、ツールが神戸にあることを目指す政策展開です」
 震災後にゼロからスタートした神戸医療産業都市は、我が国を代表するバイオメディカルクラスターとして成長し、約330社が立地している。理化学研究所ではiPS細胞を使った臨床研究が行われ、スーパーコンビュータ「京」は処理速度世界一に復活。京の後継機も神戸に設置していく計画だ。
「医薬品の研究製造部門があり、病院群があり、スパコンがある。バイオクラスターとPCを使ったシミュレーションクラスターが融合し、進展している。もうひとつ、『水素スマートシティ神戸構想』で、この3月に兵庫区で神戸市内初の商用水素ステーションがオープンする。また、水素エネルギーを使ってポートアイランド地区で発電・エネルギー供給を行っている。さらにオーストラリアから液体水素を神戸港に荷揚げする専用施設を空港島に建設する。日本で初めて液体水素を荷揚げする。水素エネルギー分野でも神戸市が一歩リードしていく。このように産業振興面でもリノベーションを進めていく」と自負する。
 新たな街づくりとして都心・三宮駅周辺の再整備事業を進める。
「三宮駅周辺は大きな被害を受け、震災前の姿に戻すので精一杯だった。三宮駅は六つの鉄道が乗り入れ、乗り換えが不便で、街に出て行きにくい。駅を街の空間としてイメージできるように整備する。コンセプトは『賑わいと回遊性』。通過交通をできるだけ排除して、公共交通と歩行者優先の動線を確保する」
 三宮の再整備が始まってから民間の再開発の機運が高まっているが、神戸の顔としてどのような街をめざすのだろうか。
「神戸に限らず、駅周辺はタワーマンションの建設が進んでいる。手を拱いていてはタワーマンションが林立し、大阪のベッドタウンになってしまう。これは避けたい。三宮周辺は商業業務機能に特化し、神戸らしいショッピングやグルメ、アートを楽しめる街にしたい。駅から離れた地域は居住機能も両立させる。いろんな分野からアプローチして神戸のブランド価値を高めていく。これが神戸市の都市戦略です」
(敬称略)
(取材・文/石守 令)

神戸市
人口153万5667人(71万1200世帯)/面積557.02 km2/産業別就業人口比率①0.8②20.1③79.1/高齢化比率27.1/一般会計予算額7273億4209万円(16年度)/財政力指数0.78/実質公債費比率8.7/経常収支比率96.3/人口1000人当たり職員数7.36(14年度)
PROFILE
ひさもと・きぞう/1954年神戸市生まれ。灘高校から東大法学部に進学。卒業後に自治省(現総務省)に入省。本省勤務のほか青森県、京都府、札幌市、内閣官房などに出向。本省で各課長などを経て、総務省大臣官房審議官、同選挙部長、同自治行政局長を歴任。2012年に神戸市副市長となり、13年10月の神戸市長選挙に出馬し、初当選。現在1期目。
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